2013年1月末、携帯電話キャリア3社の2012年度第3四半期決算が相次いで発表された。NTTドコモは増収減益、KDDIとソフトバンクモバイルは増収増益という結果となったが、各社の決算発表からは今後の戦略が見えてくる。三者三様になったキャリア各社の戦略について確認してみよう。
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携帯・固定双方のネットワークを持つ強みを活かすKDDI
各社が四半期ごとに実施する決算発表からは、ここ最近の売上や利益に加え、各社の最近の動向、今後の戦略も確認できる。そこで今回は、主要3キャリアの決算発表から、各社の今後の戦略をチェックし、違いを比べてみたい。
3社の中で、最も早く決算発表を実施したのはKDDIだ。同社は前四半期に減収減益だったが、今四半期は大幅な増収増益に転じ、好調ぶりを印象付けた。
好調の背景にはいくつかの要因があるが、大きなものの1つに、固定ブロードバンド回線とのセット契約でスマートフォンの月額料金が割引になる「auスマートバリュー」がある。auスマートバリューの提供により、スマートフォンのユーザーを家族単位で増やせるだけでなく、固定回線の契約増加にも大きく結びついている。この点が収益拡大の大きな要因になっているといえよう。
アプリダウンロードし放題などで注目された月額課金制のサービス「auスマートパス」も、会員数が400万を突破するなど好調だ。「ビデオパス」「うたパス」などより高度なサービス利用へのアップセルも順調に進んでいる。スマートフォンだけでなくテレビやパソコンなどのマルチデバイス展開も進めることで、利用範囲を広げる取り組みも実施している。
こうしたことからauは、携帯電話事業に加え、固定通信事業を持つことの強みを活かした戦略が功を奏して、収益拡大を実現したといえる。それゆえ今後も、携帯・固定双方をにらんだ取り組みを進め、事業を拡大していくものと見ることができそうだ。
「マガシーク」を買収、総合サービス企業への道を進むNTTドコモ
次に決算発表を実施したのは、営業減益となったNTTドコモだ。同社の決算内容を見ると、減益ではあるものの収益自体は向上しているし、スマートフォンの販売、LTEサービス「Xi」の契約者数も、1月にそれぞれ1000万、900万を突破するなど、販売・契約面では好調に推移している。
一方で昨年11月、そして今年の1月には加入者数の純減を記録し、番号ポータビリティ(MNP)による他社への流出は増えている。流出をいかにくい止めるかが、NTTドコモの継続した課題だ。
それゆえ同社では、デバイス面では春モデルのフラッグシップとなる「XperiaZSO-02E」のような、競争力のある端末への集中と選択を進めている。ネットワーク面でもXiの下り112.5Mbpsへの対応、さらには150Mbpsへの対応など高速化を進めていく方針だ。競争力を回復する上でも、デバイス・インフラ面の強化は継続して進めていくようだ。
だが同社が、他社との差別化要因として重視しているポイントはサービス面のようだ。NTTドコモは現在、ネットワークとクラウドを連携させた「ドコモクラウド」や、デジタルコンテンツや物販などを扱う「dマーケット」などを主軸とし、端末とネットワーク、コンテンツを一体化した総合サービスを展開する施策を進めている。そして今回の決算発表では、この取り組みをより一層強化する方針も見て取ることができた。
具体的には、ファッション系のECサイトを運営する企業「マガシーク」を、株式の公開買い付けにより子会社化する方針を決算発表と同じ日に発表したことがその証左に挙げられる。NTTドコモは以前にも、オークローンマーケティングやらでぃっしゅぼーやなど、異業種の企業を次々と買収したことで話題となった。今回の買収は、総合サービスを目指すべく事業領域の幅を広げるという方針を、一層強化していくことを印象付けた。
携帯電話インフラの強化にまい進するソフトバンク
最後に決算発表を行ったのは、ソフトバンクモバイルなどを傘下に持つソフトバンクだ。同社は売上が3期連続、利益が9期連続で最高となるなど好調な決算を発表している。
そして今回の決算説明会で、同社の代表取締役社長である孫正義氏は、インフラ事業に対して特に時間を割いていた。他社と比べて長い間「つながらない」と言われてきたソフトバンクモバイルのネットワークだが、プラチナバンドと呼ばれる周波数帯域の1つ、900MHz帯を確保したことや、LTEのサービス開始などでネットワークが他社より優位に立っていることを、孫氏はさまざまな調査データを用いて力説したのだ。
さらに、昨年買収を発表して大きな話題となった米スプリント・ネクステル社に関する取り組みについても、時間を割いてそのメリットや今後の取り組みなどを説明していた。他の事業についても説明はしたものの、説明にかける内容や時間の取り方から見る限り、やはり携帯電話のインフラに対する注力の度合いが高まっているという印象を受けた。
スプリント・ネクステル社の買収はまだ完了している訳ではないため動向に不透明な部分はあるが、ソフトバンクは当面、iPhoneなどの好調な販売を背景として、“土管”、すなわちインフラの強化にまい進することで、事業を拡大していく戦略をとると見ることができそうだ。
このように各社の決算からは、戦略上注力しているポイントが三者三様となってきており、同じ携帯電話キャリアと一括りで比較するのが難しくなりつつある印象を受ける。今なお各社は毎月の契約純増数に一喜一憂する傾向が続いているが、それ以外の視点から市場の動向を見る必要もあるだろう。
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